書籍・関連メディア
ヒョウのハチの物語は、戦争と平和、人間と動物の絆という普遍的なテーマを持ち、多くの著者によって記録され、様々な形で後世に伝えられてきました。ここでは、ハチについて知るための主要な書籍や関連メディアをご紹介します。
一次資料

『豹と兵隊』
成岡正久著(1967年 芙蓉書房)
ハチと運命をともにした成岡正久氏自身による回想録。中国での出会いから別れ、そして終戦後の再会まで、ハチとの日々が生き生きと描かれています。古賀忠道氏(元上野動物園園長)の序文も収録されており、ハチを知るための最も重要な一次資料です。
初版は『兵隊と豹』として1943年に大東亜社から出版されました。
『還らざる青春の譜』
成岡正久著
成岡正久氏による自伝的回顧録。戦時中の若者たちの心情が丁寧に描かれており、著者が兵士として過ごした日々とハチとの出会いを通して、戦争の非情さと人間性の温かさが対比的に描かれています。平和の尊さを考えさせられる一冊であり、成岡氏の戦争体験と人生哲学が凝縮された貴重な証言となっています。
『豹と兵隊』『還らざる青春の譜』
多くの白骨と死臭の漂う中、戦闘で廃墟となった街を行軍。殺すか殺されるか、死と隣り合わせの中で続く長い緊張。激しい銃撃戦の後、凄惨な血まみれの骸の数々。不眠不休の戦闘の連続の中、次々と戦友や上司の犠牲の報告。無理難題の命令に従い、幾度も死を覚悟しながら、冷静で的確な判断によって部下と共に生還してきた成岡さんの姿が、まるで映画のように目に浮かぶ。あまりにも詳細で克明に刻まれた記憶とその体験の中から、こんな言葉が生まれたのだろう。「戦争は勝敗が何れであろうとも、人類史上最悪の罪悪であり悲劇であることも身を以って体験した。あの忌まわしい戦場へ我が子、我が同胞を送ってはならない。」と。
成岡さんは、昭和42年「豹と兵隊」の出版後、さらに昭和55年に「還らざる青春譜」を戦友らの要望もあって執筆したとのこと。本書は多くの戦争体験者の声を代弁した記録とも言える。私たちは、この成岡さんの言葉を、「ハチと兵士の像」の碑文として残すことにした。
『豹と兵隊』では、ハチとの出会いと成長を軸に、ふれあいと様々な楽しかった出来事が描かれ、上野動物園に送られるまでが主な内容である。成岡さんのハチへの愛情には、周囲への細心の気配りと適切な躾があった。だからこそ、檻に入れず寝食を共にして自由に営庭を闊歩でき、人を信頼できる豹に育ったのだと思う。人と野獣が愛情によって信頼関係を築くことができるという事実に感動し、ハチの最期に戦争の理不尽を感じる。
しかし、それらは成岡さんの戦争体験の一場面でしかなかった。入隊から帰国まで、特に戦闘とハチについて詳しく書き記した戦中日記のようなものが『還らざる青春譜』である。その記録によって、ハチと出会った時期の運の良さと、ハチが戦場のエンジェルのように成岡さんと隊員たちの心の拠り所となったことも、より一層理解できる。
本書では、碑文の後に、次のような言葉が続く。
「戦争は誰よりも反対の姿勢でありたい。」
成岡さんと共にあるハチの思いも代弁しよう。
ハチも私たちも、この思いを強く強く持ち、後世に伝えるために、この像を建立する。
ノンフィクション・児童書
『奇跡の歌 戦争と望郷とペギー葉山』
門田隆将著(2017年 小学館)
「南国土佐を後にして」の歌とともに、「鯨部隊」(第236連隊)とハチのストーリーが描かれています。著者は高知県出身で、ハチの世話をした橋田寛一氏などへの取材も含まれています。

高知から中国に派兵された『鯨部隊』が故郷を偲んで歌った歌が「南国土佐を後にして」の原曲だと皆さんはご存知でしょうか。
その鯨部隊に育てられ、寝食を共にした豹のハチ。ジャズ歌手として活躍をしていたペギー葉山さんが民謡調の『南国土佐を後にして』を生涯歌い続けた背景。読み終えたあと、『奇跡の歌』というタイトルがすとんとくる、様々な方の証言をもとに当時の状況が事細かに描かれた感動の一冊でした。
『ヒョウのハチ』
門田隆将著・松成真理子絵(2018年 小学館)
門田氏による絵本。子どもたちにもわかりやすく、ハチと兵士たちの交流が描かれています。

成岡さんという兵隊さんが中国の戦地で傷ついたヒョウの赤ちゃんを助け、ハチと名付けられ日本にやってきて剥製となりました。人間と猛獣のヒョウが種を超えて、深い絆の中で一緒に過ごしてきたのに悲しい別れになるとは・・・
成岡さんはせめてもう一度生きているハチをこの手で抱きしめたいと思ったのではないでしょうか。愚かな戦争がどれほど多くのものを無惨に破壊してしまうのか「ヒョウのハチ」の絵本を通し、子供たちと共に話し合い考え続けて行きたいと思います。
『兵隊さんに愛されたヒョウのハチ』
祓川学著(2018年 ハート出版)
著者自身が中国の牛頭山を訪れた体験も含め、ハチの物語を丁寧に紹介した児童書です。

中国で銅山確保のため駐屯していた小隊が人食い豹を退治に行って、親とはぐれた豹の子供に出会い保護します。兵隊の成岡さんと一緒に過ごした期間は一年余りと短くともその時間がいかに濃密であったか、愛情溢れていたか。愛情はお互い思いやって、より深まるものだから豹のハチの成岡さんへの思いも同じはず。上野動物園に引き渡し剥製となったが、成岡さんの元に帰り語り継がれ大事にされ、今では高知みらい科学館で誰でも会う事が出来るという奇跡も、成岡さんの愛情の賜物だと思う。
『戦場の天使』
浜畑賢吉著(2003 角川春樹事務所)
ハチの剥製修復に尽力した浜畑氏による童話作品。戦争という厳しい時代に生まれた兵士とヒョウの絆を子ども向けに優しく描いています。

「こいつは戦場のわしらの天使じゃ。」赤ちゃんヒョウの無垢な寝顔に、兵士たちは子どもにかえったような顔を見せる。戦時であることを忘れるようなハチとの温かなひと時、兵士たちは心に虚しさを抱えながらも、ハチのやさしさや愛にふれると、人間らしい心を取り戻すことができた。ハチに癒され、ハチを心の支えに戦地でのつらさを乗り越えることができたのだという。
戦後、剥製となったハチと長い間、共に過ごした成岡さんのハチへの深い思いについて、改めて考えてみたい。
その他の児童書
『戦場の天使』
浜畑賢吉著
(2003年 角川春樹事務所)
『ひょうのこハチィ』
小川惠玉・暁央共著
(2019年 遊絲社)
『陸軍省派遣極秘従軍舞踊団』
宮操子著
(1995年)
漫画・メディア作品
『ヒョウと兵隊』
一峰大二著
(1968年「小学四年生」1月号)
NHKドキュメンタリー
『豹と兵隊』
(1977年放送)
『ハチからのメッセージ』
(2009年
高知市子ども科学図書館)
ハチの紙芝居
(2010年
高知学園短大制作)
企画展「ハチの命展」
2012年に高知県立のいち動物公園で開催された「ハチの命展」は、ヒョウのハチの物語を通じて平和の大切さを伝える企画展でした。この展示に使用されたパネル類は現在も教育用資料として貸出が行われています。
ハチの物語を通じて、戦争の時代を生きた人々の思いや、動物との絆について考える機会を提供しています。